韓国のMZ世代の間で「ハルメニアル(ハルモニ〈おばあさん〉とミレニアルの合成語)」が流行し、Kスイーツにもレトロブームが起きています。特に薬菓(ヤックァ、蜜をまぶした伝統揚げ菓子)は大人気で、コンサートのチケットを買う時のように争奪戦が繰り広げられることから「ヤッケティング(薬菓とチケッティング〈チケット争奪戦〉の合成語)」という現象がインターネットで話題になりました。こうしたことを受けて、レトロとモダンが共存するフュージョンスイーツが次々に登場。最近では人気スイーツがコンビニのPB商品として販売され、簡単に手に入るようになりました。Kスイーツを楽しむ文化はこのように若い人たちの間ですっかり定着した感があります。
こうした伝統菓子人気を受け、薬菓、ケソンジュアク(揚げ餅)、餅のような古来からの韓国伝統菓子をクッキー、フィナンシェ、ケーキなどといった西洋のものと融合させた新たなスイーツを生み出し、昔ながらの韓国らしさを生かしたインテリアで人気を呼ぶカフェが続々と登場しています。ニュートロ(ニュー+レトロ)ブームを背景に、幅広い世代に人気のKスイーツの名店を訪ねてみましょう。
薬菓の伝統と価値を上品に表現する
GOLDEN PIECE
薬菓は“薬になる菓子”という意味を持つ韓国伝統の高級菓子です。古来から真心を込めて作る菓子として伝承され、名節や祭り、祭祀の時に欠かせないものとされてきました。Kスイーツの代表格とも言える薬菓に高級感を加えたことで大人気の菓子店「GOLDEN PIECE」へ行ってみましょう。
高級薬菓で知られるGOLDEN PIECEは、G-DRAGONとNIKEのコラボコレクション「クォンド」のローンチパーティーで出されたことで話題になりました。「GOLDEN PIECE」というブランド名には、“金のように貴重なかけら”という本来の意味に、“薬のように貴重な薬菓を大切な人と一緒に分けあう”という願いが加わっています。
ハンナム洞に位置する店舗は全体的に鈍い光を放つゴールドのトーンで統一され、薬菓をモチーフにしたオブジェや韓国の伝統美を生かしたインテリアで飾られて高級感あふれる雰囲気を醸し出しています。ここで販売されているのは「ケソンジュアクセット」と「もち米薬菓セット」のほか、この2つをミックスした「薬菓詰め合わせセット」。毎週金曜日に翌週月曜日から日曜日までの間の販売分を予約できるようになっています。購入できるのは1種類につき5個まで。予約アプリ「キャッチテーブル」のほか、外国人向けの予約サイト(https://creatrip.com/ja/spot/13389)でも予約可能です。当日販売分が残っていれば予約せずとも店頭で買うことができますが、人気が高く品切れの可能性が高いので、その点を念頭に置いておきましょう。
食べるのがもったいないほど美しいビジュアル、適度な甘さで誰もが好むような味わい、東洋画が描かれた高級感あふれる缶。どれをとっても大切な人や自分へのプレゼントにぴったりです。GOLDEN PIECEの薬菓でKスイーツがくれる優雅なティータイムを体験してみてはいかがでしょうか。
○住所: ソウル市ヨンサン(龍山)区ハンナムデロ27ギル 25
○営業時間: 毎日12:00-18:00
○電話番号: 0507-1346-7250
○インスタグラム: @goldenpiece_korea
洗練されたモダンな雰囲気で楽しむKスイーツ
TIFFF
黒は単純な色でありながらも、最もモダンで洗練された色です。単色使いでも、他の色と組み合わせても、黒は自分の個性を守りながら新たなカラーを生み出すのです。ハプチョン駅近くにあるカフェ「TIFFF」は、黒というカラーの特性をそのまま表しているかのような雰囲気をまとっています。全体的にブラックトーンのインテリアが印象的で、さらに、洗練されたモダンな空気感を漂わせているのです。しかし、そんなおしゃれな空間で販売するスイーツは韓国伝統菓子をアレンジしたオリジナルのもの。コーヒーの黒色と色とりどりのKスイーツが調和した美しさが、訪れた人に新鮮な衝撃を与えてくれるでしょう。
TIFFFのスイーツとしては、SEVENTEENのスングァンやIVEのメンバー一押しのチャプサルトック(もち米を原料とする餅)、イチゴ、ピーナッツ、チーズ、黒ゴマ、カボチャなどを練り込んだソルギ(餅ケーキ)、インジョルミ(もち米をついて柔らかく仕上げたきなこ餅)といった餅類と、焼き薬菓が有名です。ドリンクメニューでは100%韓国産のヨモギを使ったヨモギラテが人気。白い牛乳と濃い緑のヨモギシロップがマーブル模様をつくるビジュアルは、まるでアート作品のようでもあります。カウンターに置かれたタブレットにメニューの説明が表示され、スイーツのサンプルも置いてあるので、外国人や初めて訪れる人でも簡単にオーダーできるでしょう。
シックな黒いテーブルとパステルカラーのスイーツが美しい調和をなすTIFFF。映えること間違いなしで、ついつい写真に収めてしまいます。このように目にも楽しませてくれるTIFFFで、この店ならではのKスイーツを楽しんでみましょう。
○住所: ソウル市マポ(麻浦)区ヤンファロ11ギル 64
○営業時間: 毎日12:00-21:00
○電話番号: 0507-1336-7491
○インスタグラム: @official_tifff
上品で優雅なKスイーツの定番
キムシブイン
韓国の伝統的な建築や衣装などに共通して感じられることは“上品で優雅な美しさ”です。気品を感じさせる韓国の伝統美に触れながら季節ごとに違うスイーツを堪能できる「キムシブイン」へ行ってみましょう。
ソウルのプチフランスと呼ばれるソレマウルの韓国スイーツカフェ、キムシブイン。ここでは、韓国古来の膳“ソバン(小盤)”で出してくれるスイーツメニューが人気です。年中基本のケソンジュアクに加え、夏にはチュンピョン(マッコリ入り蒸し餅)、秋にはシングァビョン(初物の果物やナッツ類を使った餅)と干し柿団子など、五方色(陰陽五行思想をもとにした5つの色)を取り入れたセットを1人用のソバンで提供してくれます。シグニチャーメニューとも言えるケソンジュアクはもち米、小麦粉、マッコリをこねたものを油で揚げた餅で、ぷっくりとした丸い形が特徴的です。真心を込めてつくる古来からの菓子で、貴重な客人をもてなしたり、宴会を開いたりする時に饗されました。特に、この店のケソンジュアクはSF9やTEENTOPなどアイドルグループのメンバーが興味を示したことでも有名です。
店内に入ると、モダンなインテリアと可愛らしい韓国の伝統小物が、独特の雰囲気を醸し出しています。韓国の伝統スイーツを優雅な雰囲気で楽しめるキムシブインのスイーツはすべてのものに真心が込められていて、天然の素材からとった甘味からは、普段食べているような洋菓子の甘みとの違いがはっきり感じられるでしょう。人気メニューのソバンチャリム(ソバンで提供する盛り合わせ)のほか、ケソンジュアク、茶食(タシク、らくがん)、正果(ジョングァ、果物の蜜煮)などを仕切りのある白磁の皿に盛った「ペクジャハプ」、2人分セットの「アダム」、3~4人分セットの「タダム」などのスイーツや、五味子花菜(ファチェ=フルーツポンチ)、ナツメ茶、生姜茶などの伝統茶、お茶、コーヒーなどがあります。
韓国の四季を盛り込んだキムシブインで伝統スイーツを味わいながら、韓国古来の趣を感じてみてはいかがでしょうか。
○住所: ソウル市ソチョ(瑞草)区サピョンデロ26ギル 26-6
○営業時間: 毎日13:00-19:00 (日曜定休)
○電話番号: 02-542-5327
○インスタグラム: @kimssibooin_korean_dessert
Kスイーツの無限なる可能性、大胆に姿を変える
イウッチプトントンイ
Kスイーツが注目される理由のひとつとして、アレンジされた進化バージョンが次々に誕生していることが挙げられます。トゥンカロン(クリームなどをたっぷりはさんだマカロン)、薬菓フィナンシェ(薬菓をのせたフィナンシェ)、ペストリープンオパン(ペストリー生地のたい焼き)などの誕生からも分かるとおり、Kスイーツの進化には偏見も限界も存在しません。新たな味とビジュアルを楽しむだけでいいのです。「イウッチプトントンイ」も、そんな、東洋と西洋のデザートを組み合わせた新たな味に出会えるユニークなカフェです。
愛らしい名前が印象的なイウッチプトントンイは、スイーツマニアの間で有名な名店です。人気メニューに挙げられる様々な種類の塩パン、シアッホットクフィナンシェ(カボチャの種などをのせたフィナンシェ)、カヌレといったスイーツメニューのほか、ファンチーズラテ(黄色チーズのラテ)、コーヒー、お茶、エイド(フルーツ風味飲料)などのドリンクメニューを揃えています。なかでも特筆すべきは薬菓クッキー。Wanna Oneのメンバーだったキム・ジェファンのお気に入りスイーツとしても知られる薬菓クッキーは、クッキーの上に薬菓をのせた西洋と東洋のコラボスイーツです。しっとり柔らかいクッキーと歯ごたえのある薬菓の組み合わせは意外なゴールデンコンビと言えるかもしれません。ほかに、シアッホットクフィナンシェも人気メニューのひとつ。釜山の屋台菓子としても知られるシアッホットクとフィナンシェを組み合わせたもので、フィナンシェでありながらも、上にまぶした種やナッツ類と中に入っている餅でシアッホットクの風味を楽しめてしまうという、1度で2度おいしい欲張りメニューです。
ウッドトーンの落ち着いたインテリアがおしゃれなのイウッチプトントンイですが、店の外でオーダーしなければならないので、まず店内に入って席をキープしてから、再び外に出て注文するのがいいでしょう。人気店なので並んでいるお客さんが多いことも考えられ、何はさておき席のキープが先決です。テイクアウトの場合はさほど待つこともありませんが、午後の遅い時間だとお目当てのメニューが品切れになっていることも考えられるので、できるだけ早い時間に訪れるのがポイントです。
もし、“イウッチプトントンイの薬菓クッキーが食べてみたいけど、足を運ぶ時間がない”……ということであっても、大丈夫。あまりの人気に、コンビニのPB商品としても販売されているので、手軽に元祖の味を楽しむことができるのです。忙しい旅行スケジュールで行きたい場所すべてを訪れることができないとしても、トレンドのKスイーツを味わう機会は逃さないようにしましょう。
○住所: ソウル市カンナム(江南)区ソンルンロ161ギル 19
○営業時間: 毎日10:00-21:30
○電話番号: 0507-1313-9286
○インスタグラム: @tongtonge_
これは餅かそれともケーキか…… 餅の華麗なる変身を実現した
シルケーキ
米を使って丹精込めて作った餅は、韓国では慶事と弔事に欠かせないもので、食事としてもデザートとしても親しまれています。そんな餅を、スイーツカフェ「シルケーキ」では、Kスイーツブームの前から西洋風のケーキに変身させて提供してきました。
おしゃれなMZ世代たちが行きかうホンデ(弘大)通りの裏手・サンス洞にあるシルケーキは、韓国産の米だけを使った手作りの餅ケーキを販売しています。「パンカロード」、「水曜美食会」などの有名グルメ番組やグルメYouTubeチャンネル「偏食のヘンニム」でも紹介されたほどで、正真正銘、餅ケーキの名店なのです。カボチャクランブルソルギケーキ、黒ゴマロールケーキ、ブルーベリーソルギケーキなど韓国の食材を使った餅ケーキが名物で、上品なその姿と深い味わいが多くの人から愛されています。予約販売になりますが、パヴェ餅チョコレート(ココアをまぶした生チョコ風餅)も大好評。ほかに、ネイバー予約のシステムを使って、ホールケーキを注文することもできます。これらの菓子は餅というより焼き菓子の感覚に近いため、餅を食べる習慣のない外国人でも抵抗感なく楽しめるでしょう。身体にいい素材を使っているうえに、ベースとなる米はグルテンフリーなので、健康志向の強い人にもぴったりです。このような餅類のほか、コーヒーや韓国産のナツメを使ったナツメラテ、済州抹茶ラテ、手作りシロップを使った果物茶、お茶などのドリンクメニューも用意されており、店内でゆっくりくつろげるようになっています。
温かい雰囲気の餅ケーキから生チョコ風餅まで。東西のスイーツを融合させたシルケーキで、ユニークな食感と味わいを楽しんでみましょう。
○住所: ソウル市マポ(麻浦)区オウルマダンロ1ギル 18
○営業時間: 毎日11:00-20:00
○電話番号: 070-4177-7700
○インスタグラム: @siroocake